建物は何十年も管理するのに、なぜ石綿調査は毎回ゼロからなのか

物件管理

建物は何十年も管理するのに、なぜ石綿調査は毎回ゼロからなのか ― 情報資産化で変わる現場

建物管理や修繕計画は、10年・20年単位で“履歴”を積み上げる世界です。 図面・点検記録・修繕履歴・設備情報は、年を追うごとに精度が上がり、次の工事や予算計画の根拠になります。

ところが石綿(アスベスト)だけは、改修のたびに「前の資料が見つからない」「結局また調査」になりがちです。 これは単なる手間ではなく、工程遅延・追加費用・説明責任につながる“構造的なロス”です。

建物管理と改修のイメージ

■ 石綿調査が「資産」になっていない現場の実情

石綿調査は本来、一度きちんと実施すれば次回以降の判断を速くする“資産情報”です。 しかし現場では、次のような状態が当たり前になっています。

  • — 前回調査の報告書がどこにあるか分からない
  • — 写真はあるが、どこの部位か特定できない
  • — 分析結果は紙で保管、次の担当者が見ていない
  • — 担当者が変わると「安全側で再調査」になりやすい

これでは、調査は“毎回の消耗”になり、工事全体のボトルネックになります。

資料が散在するイメージ

■ なぜ情報が残らないのか(残らない3つの理由)

1)保存単位がバラバラ(案件単位で終わる)

多くの現場では「案件フォルダ」に報告書を入れて終わりです。 しかし建物管理は案件ではなく建物が主役。案件単位では履歴が分断されます。

2)写真・分析・図面が分離している

石綿データは、写真(現場証跡)分析結果(根拠)位置情報(どこか)がセットで初めて使えます。 どれかが欠けると、次回は“参考にならない資料”になります。

3)属人化(判断のメモが残らない)

「なぜこの部位は除外したか」「なぜここはみなし非含有にしたか」―― こうした判断理由が残らないと、次回は担当者が変わった瞬間に再調査へ傾きます。

情報が分離している図解

■ “あるのに使えない”が生むリスク

石綿情報が「ある」だけでは不十分です。使える形で残っていなければ、 それは実質“無い”のと同じです。

  • 工程遅延: 過去資料探し→結局再調査で、工期が押す
  • コスト増: 既に調べた部位を再度分析し、費用が重複
  • 説明責任: 行政・発注者に「根拠」を示せず、対応が長引く
  • 安全リスク: 記録不足で判断が弱くなり、現場リスクが残る

石綿は「発見したら高い」のではなく、発見が遅れるほど高い。 だからこそ、情報資産化が効きます。

工程遅延のイメージ

■ 情報資産化の最短ルート(何を残すべきか)

“資産になる石綿情報”は、次の6点が揃っていることが条件です。 これが揃うと、次回の調査は「やり直し」ではなく「更新」になります。

  1. 部位: どこの何か(天井・壁・配管保温・塗膜など)
  2. 位置: フロア・区画・図面上の場所
  3. 写真: 全景+近接(“誰が見ても分かる”)
  4. 分析結果: 試料番号・分析書・層別情報
  5. 判断メモ: 除外理由/みなし根拠/注意点
  6. 更新履歴: いつ、何が変わったか(撤去・改修)
資産化に必要な項目の図解

■ 物件管理で「調査→資産」に変える

ここまでの話を、現場で“続く仕組み”に落とし込むのが物件管理です。 物件(建物)を主役にして、案件・工事が変わっても履歴が残る形にする。 これができると、石綿調査は「毎回ゼロ」ではなく「積み上がる運用」になります。

  • — 建物ごとに、写真・分析・図面を一元管理
  • — 次回工事は“対象部位だけ”抽出して差分調査
  • — 引き継ぎも「人」ではなくデータで回る
  • — 行政・発注者への説明が根拠付きで即答できる
物件管理の画面イメージ

■ メタラボ石綿事前調査システム

メタラボ石綿事前調査システムなら、物件管理を中心に調査データの一元管理・CSV出力・レポート自動生成までワンストップ。情報資産化で、工程・コスト・説明責任の“ムダ”をまとめて減らせます。

メタラボ石綿事前調査システムの画面例

■ 著者紹介

前田 淳司
前田 淳司

1991年 NTT入社、その後2007年に総合解体工事業大手の株式会社前田産業に入社、解体工事業を現場から学び、その後同社常務取締役を得て、2022年株式会社metalab.を設立。
自らが経験した解体工事業の経験を活かし、人口減等の社会的課題を解体業に特化したサービス提供で業界イノベーションを推進したい思いから事業を立ち上げ、現在では解体工事現場代理人教育や解体施工技士対策講師等も実践している。解体工事業界18年目。

© metalab.

関連記事

特集記事

コメント

この記事へのコメントはありません。

TOP
CLOSE