2022年4月の法改正から早2年が過ぎ、これまでにない石綿事前調査が数多くの現場で行われています。この法改正に合わせて事前調査に関わる様々な事業領域が拡大してきました。分析には新たに多くの業界から進出し、一時は顕微鏡品薄状態にまでなっていた勢いでもありました。数多くの調査を賄うべく、至るところで調査者講習が行われ、2024年9月末現在、調査者は22.8万人となっています。しかしながら、現場知識もなく2~3日講習を受けた程度で調査が出来るようなることはなく、そういった調査者や実施責任者である元請をサポートする機能や仕組みが必要となっています。そういった中、時代背景の後押しもあり「石綿事前調査システム」がいくつか誕生してきました。解体工事業界を経験して感じているこの辺のサービスの特徴を御紹介します。
●比較表(2025/01現在)
メタラボ石綿事前調査システム | ユニポート | 石綿調査くん※受付制限有 | a-Rex | |
---|---|---|---|---|
初期費用 | 20,000円~ | 20,000円~ | 無料 | 40万円/5年契約 |
月額 | 10IDあたり: 月払: 月10,000円~ 年払: 月9,000円~ |
10IDあたり: 月8,500円~ |
月6,556円(受講者特典有) | 月9,000円 ※初期費用なしの場合 |
調査件数登録制限 | 無 | プランによって有 | 無 | 無 |
オフライン機能 | 〇 | × | × | 〇 |
専用黒板 | 〇 | × | × | 〇 |
図面プロット | 〇 | × | △描画機能有り | △描画機能有り |
協力会社機能 | 〇 | 〇(有料オプション) | × | 〇 |
専用アプリ | 〇 | × | × | 〇 |
IP制限 | 〇 | × | × | × |
運営会社 | (株)metalab. | (株)EMS | SAT(株) | (株)ハウテック |
HP | 詳しく見る | 詳しく見る | 詳しく見る | 詳しく見る |
目次
1.石綿調査とは?義務化された背景と必要性
1-1. 石綿調査義務化の背景
石綿による健康被害が急増しています。厚生労働省の発表によると、統計を取り始めた1995年当時500人だった中皮腫による死亡者数は20年後の2015年には1504人と3倍に増加、2021年には1635人まで増えました。2022年は1554人で若干減少しましたが累計ではついに3万人を突破し、計3万1402人に達したということです。
こういった状況を踏まえ、大気汚染防止法に基づく石綿(アスベスト)障害予防規則の改正が令和4年(2022年)4月に施行されました。それに伴い施工業者は、建築物・工作物等の解体・改修工事を行う際には工事の規模に変わらず義務付けられました。更に一定規模以上(解体:解体部分の床面積が80㎡以上、改修:請負金額が税込100万円以上)の工事はあらかじめ施工業者が労働基準監督署と自治体に対して、事前調査結果の報告を行ことが義務化されました。
その他、改正のポイントは以下の5つです。
- 規制対象建材の拡大: 原則的にすべてのアスベスト含有成形板等(レベル3建材)まで規制対象が拡大されました。
- 罰則の強化・立ち入り検査の対象拡大: 適切な除去作業を行わない場合、下請負人も含む対象者に直接罰が適用されました。
- 事前調査の信頼性の確保: 専門知識を有する者による事前調査が義務付けられました。
- 事前調査の報告: 解体・改修工事は原則すべて事前調査の報告が義務付けられました。
- 作業記録の作成保存: 事前調査の報告や作業記録の保存が義務付けられました。
このような背景から、元請責任含めた法改正が施工されているにも関わらず、街中の施工や掲示物を見ると、制度に準じた調査を実施されていない現場は多々散見します。従業員の安全配慮義務、元請責任として実施しなければならないとは分かりつつ、調査実施自体を発注者に理解されず調査費用を負担頂けない課題や、着工や工期を迫られ、調査スケジュールが確保出来ないという施工者側の理屈も分からないではありません。とは言え、やらなければならない現実で、まじめにやっている業者がバカを見る世の中はあってはならないと考えます。そのような背景を受けて、IT技術を用いて簡単に事前調査を実施出来るツールがいくつか登場してきたので御紹介させて頂きます。
2.石綿調査システムにできること
2-1.作業の効率化
WEBや専用アプリを利用して、手順を追っていけば、報告書が完成するというのが一番の特徴です。中には行政報告(Gビズ )機能まで付いているサービスもあります。
従来の方法であれば、図面調査でも疑わしい建材を調べながら計画を作っていましたが、疑義建材が最初から登録されているので選択すると入力が完了したり、現地調査において調査位置を示すために位置を記録していきますが、数が多い調査になると、どこを調査したか分からなくなる等の課題もありましたが、取り込んだ図面に調査位置をプロット出来るサービスもあります。何より、事務所に戻って写真整理をする必要があり、該当画像をフォルダから探しながら切り張りしていましたが、調査位置毎に写真を記録出来るので、画像の仕分け作業が必要なくなります。このように、利用者によってやり方が違った調査方法について、一連の手順を踏んで進めることで調査報告書や行政報告書を作成することが出来るようになるということがシステム全体の共通のことと言えます。
作業効率を上げることはもちろん、経験の浅い調査者もこういったツールを利用することで、調査自体が容易にもなります。
2-2.調査・報告書レベルの向上
石綿事前調査には決まった様式がないことが課題でもあります。様々な様式が存在するだけに報告書によって内容が異なります。しかも、未だに、採取した検体の分析結果だけ保有していれば保管書類となると間違った理解をしている事業者も多く、報告書の必要性すら把握されてないない現状も否めません。
そういった状況下で、保管義務に適した項目が網羅され、統一した様式を抽出出来るようになります。様式を統一することで確認も容易になり、調査報告書のレベル向上が各社の調査技術や意識向上にもつながると考えます。
2-3.クラウドでの一括管理
石綿事前調査は必要な調査項目を要した調査報告書を3年間の保管する必要があります。言うまでもなく保管義務が生じるのは石綿関連書類だけではありません。建設工事における保管書類は数多く存在し、元請ともなれば工種に応じた施工書類が無数に存在します。紙書類が主流のこの業界、この分保管書類は増大します。長期保存関連となれば事務所の一室占めたり、保管書類用に倉庫を用意することさえあります。他方、保管すべき書類すら理解しておらず、謀殺された業務を理由に保管書類など知らぬ存ぜぬの業者がいることも事実です。
また、データ保管にしても、担当者任せの保管であったり、社員の退職により書類がどこにあるかも分からい等、保管方法がままならない現状のようです。 それぞれのシステムはクラウドによるシステム構成となっており、安価なクラウド上の各社の領域に各調査情報を保管することができます。この領域に保管することで、権限を与えられた各ユーザーはいつでもどこでも情報を閲覧することが可能となります。閲覧権限やIP制限等、セキュリティは各社異なるがクラウドであることで、前記の保管書類課題は概ね解決され、安全に利用出来ます。
3.石綿調査システムを選ぶ際の重要なポイント
3-1. クラウド対応や専用アプリの有無
石綿調査を取り巻く環境には様々な立ち位置があります。元請責任としての事前調査の責任を要する事業者、実際の調査をする立場でも元請もあれば、調査を生業にする事業者、採取された検体を分析する事業者、それぞれの立場によって使い勝手が異なりますが、特徴的な機能として、専用アプリのあるサービスを選ぶとブラウザ機能では出来ない機能が付いている主要な2つがあります。「図面へのプロット機能」と「オフライン機能」です。
オフライン機能については次項で詳しく説明させて頂きますが、「図面へのプロット機能」というのは、現場で事前に登録しておいた図面に記録(マーク)を付けられる機能です。石綿事前調査は現地で各部位を目視調査し、疑義建材は採取するが、その際、これまでは持参した紙の図面に手書きでメモや記録(マーク)を入れていました。それを元に帰社後に報告書まとめますが、現地記録を怠れば、事務所に戻った後、調査した画像とにらめっこしながら、自分の記憶を頼りに報告書をまとめていくことになります。数件の調査ならまだしも、数多い調査になると時間もかかりますし誤記にも繋がります。
それを解決してくれるのが現場で実施する「図面へのプロット機能」です。タブレットで図面を開きタップすることでマークが付き保存され、その図面がそのまま報告書に反映されます。誤記を防止し、帰社後の事務作業を半減させると同時に精度の高い報告書を作成することが出来るようになります。
3-2. オフライン機能の重要性
地下や山中等、通信環境が悪く圏外または電波が微弱な場所での調査も多くあります。こういった場合、ちょっとした検索で探しものも出来ないし連絡も取れない状態となります。また、そもそも調査先の環境が顧客データ等を有した場合等は、通信機器を持ち込めないという規制を受けるケースもあります。顧客情報管理の徹底で大手企業の関係建物は特に多いかと思います。更に、無線の通信環境ならではの、周辺電波環境で情報更新の速度が急激に損なわれ、画面遷移に時間を要するストレスを感じることが多々あります。見えない電波に太刀打ち出来ません。
そのような問題を解決してくれるのが「オフライン機能」です。オフライン機能は、その名の通り通信環境がなくてもオフライン状態で利用することが出来る機能です。オンライン状態でデータを端末にダウンロードし、そのまま端末を現場に持参してオフラインで調査することが出来ます。このように、通信環境が悪い現場、セキュリティ関連で持込機器を制限される現場調査をされるケースのある調査者の方や、数秒のデータ更新にすらストレスを感じるようなスピード重視の方はオフライン機能を有したサービスをお勧めします。
3-3. 初期費用と月額費用の比較
初期費用は20,000円前後から400,000円程度となっており、各社料金体系は様々なようです。とは言え、他業界のシステムと比較すると一部サービス以外は安価という認識です。
月額費用は、制限付きで無料とするケースや10,000円前後となっており、その他、オプションやデータ量で料金体体系が変わってくるケースがあるようです。月額費用内での利用ユーザー数、基本機能とオプション機能や料金体系も把握する必要があると思います。利用用途によって使い勝手と費用の掛け具合が変わってくると思うので、上記比較表を参考にして頂くと良いかと思います。また、無料サービスも出るようなことも聞いていますが、法人として利用するサービスについて、情報漏洩が問題視される昨今、顧客情報含めた大切な調査情報は、費用をかけたうえで、サービス提供業者と対等な契約のうえで情報管理の安全を確保するするべきだと考えます。
4.業界18年のプロが選ぶおすすめ石綿調査システム4選
①メタラボ 石綿事前調査システム

機能・出来ること | オフライン機能、図面へのプロット、専用黒板、写真管理、報告書作成、GビズCSV発行、協力会社機能、看板・作業計画書作成、分析依頼書作成、(一社)ASA報告書作成 |
費用 | 初期費用:20,000円、月額10,000円~/10ID 年払いの場合 9,000円/月あたり |
メリット | ・オフライン機能で電波の悪い場所でもストレスなく利用出来る ・現場経験者が開発しており、現場ファーストの仕様になっている ・IP制限等のセキュリティオプション有り ・報告書帳票がExcelで出力される(現場掲示物もあり) |
デメリット | ・専用アプリがandroid限定。現状iOS不可(開発中) |
こういう会社におすすめ | ・調査をこれから始める方(経験の浅い方) ・社内セキュリティが高い法人 ・圏外、地下、通信制限のある案件が多い方 ・改修、リフォームなど月の調査件数が多い方 |
②ユニポート

機能・出来ること | 写真管理、報告書作成、GビズCSV発行、協力会社機能、施工関係書類の作成、産廃システムとの連携 |
費用 | 初期費用:20,000円~、月額8,500円~/10ID |
メリット | ・調査だけではなく工事の書類も連携している ・関連資格の講習も実施している |
デメリット | ・調査登録件数やデータ量等に応じて費用が増額する可能性がある |
こういう会社におすすめ | ・調査だけではなく施工も行い、石綿廃棄物の管理をしたい方 ・講習受講も兼ねる方 |
③石綿調査くん

機能・出来ること | 写真管理、報告書作成、図面の描画機能 |
費用 | 初期費用:無料、月額6,556円/1ID |
メリット | ・チャット相談機能あり ・受講生は無料で利用可能 ・提携の分析会社あり |
デメリット | ・同社主催の講習受講者限定利用の設定あり ・GビズのCSVの出力が出来ない |
こういう会社におすすめ | ・調査の相談をしたい方 ・分析会社をお探しの方 |
④a-Rex

機能・出来ること | 写真管理、電子黒板、CADでの図面作成、GビズCSV発行 |
費用 | 初期費用 400,000円(5年契約) 9,000円/月メニュー有 |
メリット | CAD機能が利用出来る |
デメリット | 初期導入コストがかかる |
こういう会社におすすめ | 頻繁に図面の作成が必要な方 |
5.石綿調査システムを導入する際の注意点
5-1. 導入コストを抑える方法
月額価格帯や利用ID数の幅広いため、予算に合わせたものを選ぶ必要があるかと考えます。ほとんどは利用人数に応じて金額が高くなるのが一般的ですが、案件数、保存容量に応じた課金形式もあるようです。加えて、初期費用やオプション費用もかかることが多いため、現在の自社の調査数や規模、そして今後を想定して、負担とならない範囲であるのか、費用対効果は合うのかという視点で、現場に合わせた柔軟な対応が求められると考えます。また、システムを入れる選択肢だけではなく、現行の方法で何か工夫は出来ないのかも考えることが最優先事項と考えます。
5-2. サポート体制の確認ポイント
このようなシステムを導入した場合、導入したら終わりではなく、アフターサポートも重要ポイントです。運営会社の対応力やサポート体制を確認することが重要で、システムトラブルが起きた時に、サポート体制が整っていないと業務にも支障をきたします。
業務時間や問合せ方法を確認する必要もあります。メール、電話、オンライン説明、訪問等様々な方法があるかと思いますが、例えば自社の社員がオンライン説明に慣れていない場合、訪問してくれるのか?在宅勤務で電話対応が厳しい場合、メールで迅速で対応してくれるのか?休日に作業することもあるが対応可能なのか等、自社の状況に応じて確認することは必須です。いずれにしても迅速に対応してくれるところが良いと考えます。
また、工事に関連する調査が概ねであることから、システムのサポートだけではなく工事のことも相談できるところを選択することも必要な要素と考えます。特にこれから調査を始める方、経験の浅い方にとってはとても不安だと思います。我流で手探りでやるよりはシステムを導入して、かつ技術的なサポートを受けられるという保証があればより心強いです。他方、現場の分からないシステム的な問合せだけ受けるサービスはお勧めしません。
6.まとめ:業界18年のプロが選ぶベストな石綿調査システムは?
6-1.各システムの総評
「メタラボ石綿事前調査システム」は、月額10,000円~の中で多岐にわたる機能を搭載している為、様々な立場の方が利用できるシステムとなっています。費用対効果も優れており、セキュリティ対策オプションも準備されており、初心者から大手の高い情報管理レベルを求められるケースでもお勧めしたいです。また、現場経験者が開発しているため、調査や工事の相談もできる等、単なるシステム提供だけでなく調査根本の問題解決まで対応出来ます。
更に運営会社の(株)metalab.は、関連業務や関連会社に講習機関や分析会社、施工会社はなく、純粋にシステムの提供を行っているので、他業務との利害は関係なく既存業務や協力会社・顧客との関係にシステムをはめ込むだけで運用スタート出来ます。
「ユニポート」は、施工に係る書類の作成と管理ができ、また他のメニューに産廃の管理機能もるので、石綿業務施工を多くされる方にお勧めです。また、講習機関が運営している為、資格の相談も可能のようです。
「石綿調査くん」は、講習機関が運営しており受講生方は無料で利用可能の為、コストを抑えたい方におすすめです。また分析会社とも連携している為、分析でお困りの方はご相談できると思います。ただ、受講者限定となっているために誰でもという訳にはいかないようです。現在は受入れ停止中でもあるようです。
「a-Rex」は、初期費用が40万円/5年契約(サブスクもあり)のため他社より高価となっており、導入時のハードルが高いようですが、CAD機能が利用出来るため報告書作成の際に図面を作成している方におすすめだと思います。
6-2.自社にあったシステム選びの提案
厳選した石綿調査システム4選を紹介しました。建設業界には少しずつ参入してきたDXのサービスですが、石綿関連や解体業を取り巻く環境はまだまだ遅れており、主業務の脇役的な業務なので目を向けられませんが、多くの労働時間を費やす業務と断言出来ます。また、石綿調査は様々な立場の方が係る業務になっているので、自社の希望全てに合致したシステムを見つけるのは至難の業だと考えます。全てに合致したシステムを出会うには自社で開発ほか方法はありません。自社開発しようとすると、膨大なコストと時間を要します。それにコストや時間をかけるより今ある製品の中から使える機能を利用し、足りない部分は現在の方法や別の方法で補う方が良いと考えます。そういった現場の皆さんの要望を柔軟に聞き入れる姿勢のあるサービス会社を選ぶべきだと考えます。
最後に、石綿調査に関わらず、既存の業務フローを変更するには大きな壁があります。既存業務に追われているのに新しい知識を入れる余裕がないことも理解できます。ただ、そうも言って居られない未来がそこまで来ています。少しでも生産性を上げて、業務を効率化し、新たな領域にチャレンジする時間に充てて欲しいと切に思います。

1991年 NTT入社、その後2007年に総合解体工事業大手の株式会社前田産業に入社、解体工事業を現場から学び、その後同社常務取締役を得て、2022年株式会社metalab.を設立。 自らが経験した解体工事業の経験を活かし、人口減等の社会的課題を解体業に特化した サービス提供で業界イノベーションを推進したい思いから事業を立ち上げ、現在では解体 工事現場代理人教育や解体施工技士対策講師等も実践している。解体工事業界18年目。
コメント